「旅行に行きたい」を叶えたい
「旅行に行きたい」
利用者さんからよく聞くフレーズですが、なかなか実現しません。
旅行に行くにはご本人の健康状態に加え、ご家族の協力が必要不可欠だからです。
でも、ご本人もご家族も私たちも、いつの間にか勝手にブレーキをかけているだけなのかもしれません。
まずはご本人を「その気にさせる」こと。
そのスイッチを私たちが押すことが出来れば、夢は実現するかもしれません。
この記事の目次
その気スイッチを押そう
実際の利用者さんとの体験談を紹介します。
みなさんも参考にしてくれれば。
W.Sさん(82歳・女性)
脳梗塞後遺症による右麻痺。歩行は杖歩行で近位見守り。※手伝うまではいかないけども転倒の危険があるかもしれないので近くで見守るレベルという意味です
「32年ぶりに (大阪から)ふるさとの宮崎に墓参りに行きたい」という希望がありました。
でも、「この身体だから無理・・・」「家族に迷惑をかけるから・・・」と、なかなか自信が持てません。
こちらからも、「じゃあ里帰りを目標にしましょう」などの声かけをするのですが、なかなかその気になってもらえない。
まずは、「その気」になるためのスイッチを押すことが必要だと考えました。
スイッチを押すことができればこんな流れができるかも
里帰りに行く気が起きれば、それが目標になる
↓
目標が決まれば目標達成のために行動することになる
↓
里帰りのためのリハビリやレクリエーションの参加率が上がる
↓
家族との関係も変わるので里帰りのための協力を得られる
↓
里帰りにチャレンジ
そこでこんなレクリエーションをしてみました。
Googleストリートビューで旅に出よう
今回は、Googleストリートビューを使った、回想法を取り入れた疑似旅行体験を紹介します。
Googleストリートビューは、GoogleMap内のサービスで、世界中の名所や絶景を、360°パノラマ写真で見ることが出来ます。
介護施設にいながら、エジプトのピラミットやモアイ像、富士山、マチュピチュなど世界の名所をその場にいるように疑似体験することが出来るのです。
しかも無料で!
これはレクリエーションに活用しない手はありません。
Googleストリートビューは、世界の名所だけでなく、日本中の主要道路も360°パノラマ写真で見ることが可能なので、利用者さんのふるさとへも一瞬で旅することが出来ます。
Googleストリートビューの使い方
↑Googleマップの右下の「人間マーク」をパノラマ写真を見てみたい道路へ
↑たったそれだけで360°パノラマ写真が!
矢印をクリックすれば道を進んでいくこともできます。
まるでその場所を歩いているような感覚になります。
Googleストリートビューを使ったレクリエーション
目的・効果
その気にさせるスイッチを押す 回想することで脳を刺激する
準備物
パソコン Googleストリートビューの写真を印刷
方法
①昔話を掘り下げ、ふるさとの話題を引き出す。
Wさんと会話をしていると、ふるさと宮崎県の話が出てきました。海に近い田舎町で、歩いて数分のところに海があったそうです。
子供の頃は友達と畑で捕ったミミズを餌に、その海へよく釣りに行き、30㎝もあるアジを釣ったことが自慢です。
ここまで会話が広がればGoogleストリートビューの出番です。
②Googleストリートビューで故郷を検索
パソコンを使い、利用者さんから聞いたふるさとの住所をGoogleストリートビューで検索し、風景を見てもらいます。(番地まで思い出せなくても、市町村名だけでOK)
写真でリアルに情報が入ってくるので、会話がどんどん広がっていきます。
「そうそう、ここに川があってな。ここから泳いで海に出られるんや。」
「今はこんなふうに整備されてるんやな。綺麗になって。」
③さらに思い出が引き出されるような質問を投げかけていく。
場所・建物に関する質問を積極的にしていきましょう。
『小学校はどこにありましたか?』
『よく遊んだ場所は他にありますか?』
『近くに思い出の場所はありますか?』
Googleストリートビューは、その場所を歩いているように移動することが可能です。キーワードが出てきたら、Googleストリートビューでその場所へ行ってみます。
④思い出の場所が見つかったらその場所の写真をプリントアウトする。
プリントアウトすれば、いつでもその場所へ帰ることが出来ます。Wさんは、写真を指差しながら周辺の観光地や、漁港の話をしてくださいました。
「ここに行くと漁師のおじさんから、小さいカニをもらえるんや。」
「この海岸は磯の香りがしてなぁ。」
↑この写真は部屋に飾っていつも眺めているそうです
⑤会話の中のキーワードから目標を引き出していく
写真から引き出されたふるさとの話で、Wさんの頭の中はフル回転しています。
こんな時こそ、リハビリやレクリエーションへのやる気を引き出すチャンスです。
『ふるさとに帰ってみたいと思いますか?』
『もう一度ふるさとに帰るためにはどうしたらいいでしょうか?』
「寝てばっかりいたらあかんなぁ。」といったポジティブな会話を引き出すことが出来たら、リハビリやレクリエーションにお誘いしてみましょう。
友達との遊びの話題が出れば、その遊びをリハビリやレクリエーションに取り入れることもできます。
懐かしい思い出には動機づけになるキーワードが溢れています。
そのキーワードを見逃さずに新しい目標を探っていくことが大切です。
POINT
リアルに語ることで、その場所に連れていくことが大切。
非日常を体験することで「私も行ってみたい」の気持ちを引き出すことができれば、その気持ちが、リハビリやレクリエーションの原動力になります。
Wさんのその後・・・
リハビリやレクリエーションの取り組む姿勢が変わりました。
まだ宮崎に帰れていませんが、部屋に貼ってあるGoogleストリートビューの写真から家族との会話も広がり、里帰りの協力を得られそうです。
2018年4月現在
2018年の秋にWさん家族全員で宮崎旅行に行くことが決定。念願のお墓参りに行くことができそうです。
まとめ
①Googleの素晴らしいサービスはどんどん活用しよう
②利用者さんにとって、「旅行に行くこと」は難しく、ハードルが高い
諦めるのではなくて、その気になるようなスイッチを押す。そこがリハビリやレクリエーションのスタートライン
③Googleストリートビューで旅に出る
リアルな写真は動機づけになりやすい